アミノ酸のうち、グリシンを除いた19種類のアミノ酸には本来、L-体とD-体の2形態が存在します。L-アミノ酸とD-アミノ酸は鏡に映した「形」の異なる関係にありますが、アミノ酸分子単体としての物理的性質は全く同じです。一方で、生体を構成する蛋白質中のアミノ酸(以下、結合型アミノ酸)にとっては、このL-体とD-体の違いは非常に大きいものとなります。
これまで、生体を構成する蛋白質中のアミノ酸(以下、結合型アミノ酸)はすべてL-体のアミノ酸であると考えられてきました。しかし実際には、眼の水晶体や脳、血管の動脈壁、皮膚の表層部などの結合型アミノ酸が、加齢に伴ってL体からD体へと変化し、白内障、アルツハイマー病、動脈硬化、皮膚の硬化等の様々な加齢性疾患の発症に関与することが明らかになってきました。これらの疾患原因は、各種蛋白質の異常凝集化です。その引き金となりうるのがD-アミノ酸の蓄積であると我々は考えています。なぜなら、蛋白質中のL-アミノ酸がD-アミノ酸に変化することで、蛋白質の立体構造変化や、他蛋白質との相互作用変化が生じるからです。
逆に、非常に早期の段階でD-アミノ酸の生成および蓄積を阻止できれば疾患の予防が可能となるでしょう。その実現には、D-アミノ酸の検出技術が必要です。現在、我々は主として質量分析をベースとしたオリジナルの結合型D-アミノ酸検出手法を開発、運用しており、様々な蛋白質中のD-アミノ酸の同定や、さらなる技術改良にも取り組んでいます。
参考文献
水晶体内クリスタリン中のアスパラギン酸残基の異性化
髙田匠、藤井紀子
生化学 91, 322-328, (2019)
Rapid survey of four Asp isomers in disease-related proteins by LC-MS combined with commercial enzyme.
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